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社会人人生で最もやばかった件

数年前の9月だったかな。

メーカーに入社して4年目、新卒時に配属された東京本社から地方工場に初めて異動し、工場現場社員の人事担当を開始してから数か月経過し、仕事や人間関係にも段々慣れてきた頃だった。

昼休憩中に突然、『ドーン!』と言う音と事務所の窓ガラスを震わせる振動が伝わってきた。『え?!』って雰囲気になり、上司や同僚達とザワザワしてると、防災無線(管理部門では工場から消防&救急用の無線が同時に聴けるようになってる)が鳴り出し、「○○工場です!工場で爆発して、黒煙が上がってます、傷病者が多数います。」って通報が入った。そうこうしてると救急車と消防車立て続けに工場にサイレンを鳴らして走ってきて、どうやら多くの怪我人が居るらしいという話が偉い人達の会議や立ち話から漏れ伝わってきて、そこから人事部門の大変な時間が始まった。最初は地域からの電話が鳴ったり、社員の家族からの安否確認や本社の同僚からの応答対応に追われる。夕方近くなったら、次は被災者が運ばれた病院へ出向き、被災して入院した家族のケアに当たった。工場で働いてる人は東北など遠隔の人も多く、特に若い社員の両親や家族は荷物も持たずに来ていたので、食事の手配や宿泊先の確保をしつつ会社の立場、人事としての立場から謝罪を続ける。皆思う所が有るだろうに、こちらの謝罪に対しては、「危険な現場である事は理解していたはずです。」と返され、一層辛い気持ちで泣きそうになる。夜9時位にようやく事務所に戻ったら、同じく別の病院から戻ってきたベテラン人事のおっちゃんが

「明日からが本番」と一言。

(今日より忙しい事なんてある・・・?)
と思いつつ、その日は寮に帰った。

翌日も早朝から前日と同じ病院に出向き、家族対応。被災者も意識が戻り、様態も安定してきてとりあえず安心出来た。他の被災者家族の対応のために工場近くの社宅に行くと、そこにもマスコミが来ていて住民に聞き込みしてた。速攻管理人に伝えて警察にも来てもらってマスコミを追い払う。事務所に戻ると本社から人事や安全系・防災部門の偉い人が東京から来てて、上司は幹部向けの対応・説明に追われていた。昨日から殆ど寝ずに働き続けてる上司や自分達を傍目に、このタイミングで詳細な状況説明を求めるスタンスに結構な嫌悪感を抱く。一方で他の県の工場で働く人事系の若手が応援に来てくれて、自分を含めた担当者レベルの負担は少しづつ落ち着いてきたかな。同じ年代の人事系の同僚達には色々助けられてかなり心強かった。

それから暫く、工場内のあらゆる部門が事後対応にてんやわんやしていた。製造系は操業が完全にストップしたことで、ほぼ全ての製造・出荷が止まり、設備の立ち下げ&立ち上げ、保全対応に追われ、生産管理部門は怒涛の納期調整。総務部門は公官庁や地域住民への釈明。人事部門は労基署、病院、被災社員家族対応。そして直後に翌年の4月入社予定の高卒新人入社試験があったんだけど、試験受ける高校生の数が事前の見込みから激減した。そりゃそうだよね、安心安全な職場を謳って入社を呼び掛けてきたけど、大きな災害の映像を見せられては。結局、計画では100人採用するはずだった所70人しかあの年は採用出来なかった。(これが後の大変な状況に繋がる。)

そんなこんなで事故直後の激動から、暫くは混乱を抱えながら月日が駆け足で過ぎ去っていった。

たまにしっかりしていそうな大企業でも、テレビや新聞で大きく報道されるような大事故や大事件が発生する。(災害だったり、労働問題ったり、品質不正だったり)けど、一度問題が起こるとその後めちゃくちゃ長期間対応しないといけない事柄がすごく多いんだよね。

結論から言うと人事はその後数年ずっと大変だった。
事故後の再発防止策を検討する上で、安全や防災面の強化が工場内あらゆる職場で必要とされたけど、そんな業務はかなりの現場経験を積まないと出来ない。現場で製造力を支えるベテランを抜擢して、その手の仕事に従事してもらうから、実際の製造現場は若手だらけ&慢性的な人手不足になってしまった。その結果、個々人の残業時間も増加傾向(現場は3交代で回しているから人がいないなら空白のシフトは前後の社員が4時間ずつ早出残業せざるを得ない)になり、若手がメンタルブレイクして辞めていく。『自分たちはまだ数年しか経験ないのに何でこんなに生産の重責を担うのか、人事の人たちは涼しい事務所で呑気に仕事していいですよね。』と。

少し上で書いた採用数の未達もここに来て響いた。本来採用して職場投入する筈だった人員が足りないから現場の技能伝承が遅れる。それが原因で現場でトラブルが起き生産量が不足したり労災が増える。そして更に若手が嫌になって辞めていくという悪循環。人は安定的に採用しないと壊れた組織は中々復活しないと学んだかな。

人事部門のベテランのおっちゃんは「明日からが本番」と言ってたけど、人事部門が大変なのは事故そのものじゃなく、その前から継続する人員構成的な課題や、大きな事故や事件が起きた後には確実に混乱が根深く続くことを知っていたんだなと。

最近、製造業の地位が日本でも相対的に落ちてきていて、現場にかけるコストや人員も徐々に優先度が下げられていると思うんだよね。大きな企業でも品質不正や労働問題、労働災害が多く起きている。綺麗事を言うわけではないけど、人や品質を大事にできない会社は以降長きにわたって持続することはできないし、良いものを作ることはできないと思うんだ。